御要望も多く且つ叉長唄を語るには何としても欠かす事の出来ない曲。そう!「松の緑」と参りましょう。
杵屋徳衛の現代語解釈解説集 松の緑 <まつのみどり>(歌詞)
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昔から松の緑は初歩の曲のようにして稽古してきました。ですから、この曲を“知らない”なんて言うと怒られます。しかし、暗記の稽古で、しかも初歩の時に始めると「前弾き」の“テツツンドツツーンルン”はれ?っていうような具合で、唄の部分に入った途端に「??おろろんばい〜???」となって分からなくなってしまいます。 粋な曲ですが品格もあり、ゆとりを持って演奏したいですから速度もゆるくなります。と、尚更次は何を弾けば良いのやら・・・「おまえさん!今年よりばかりで、一向に進まないね!」という具合になります。 杵徳派では名取りの曲目の一つに加えられております。とはいえみなさん御存知よりの曲ですので、何を言っているのか徳衛風翻訳と参りましょうか。 「みどり」とは禿の名前。 みどりは、まだ禿であるのに毎年春を迎えるたびに、将来松の位の大夫を彷佛とさせる風を漂わせている。その輝かしい色はまだ若々しいみどりに備わっているのだろう。松の位となり、廓を練り歩く外八文字が目に浮かぶ。さぞかし華やかなことだろう。そうして幼いみどりは、偉くなって年をとって行くのだろう。まことに目出度いことだ。 |
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こう翻訳されますと、ただやみくもに覚えたのを演奏すれば事足りるという訳にはゆかなくなります。 “松の位”とは遊女といえど位が高いので、とても普通には会えないのです。教養もあり、政治の話も通じればFIFAワールドカップの事にも通じ、かつ芸にも優れ、美しい。ですからこの「松の緑」を演奏するときは品よく参りましょう。そして、そこで思い浮かべてください。そう!テレビでも映画でも芝居でも何でもいいです。禿といえどもどこか違う雰囲気を漂わせた器量良し。 「末広狩」の時に思い浮かべたように演奏したいところが、この曲でもあります。三味線の演奏で代表的なのは“松の位の外八文字”の所の“字”のすぐ後の清掻きの時でしょう。 供を連れ、外八文字に歩く時に、上品で華やかな行列のBGMを担当しているように「シャーン シャーン シャーン チンリンシャーン」“派手を”と続くとそりゃあもうあなた!(おっと失礼(^o^))何とも言えない床しさが漂うのですよ〜〜\(^o^)/。 唄の方ですと“なおーーも”や“大夫の風の 吹き通ふ”の部分とか、“筒井筒 振分髪もいつしかに”などなど、三味線との間合いも絶妙です。また“老いーーーとーーー”の“とーーー~~~”を小節三つで唄って“なる”を下から、いやらしくならないように出るのも粋になりますが、こなれてからの方が良いかも知れません。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ところでみなさん、最近“器量良し”と言う言葉を耳にした事はありますか? “器量良し”とは、決して“美人”と言うことではありません。美人ではなくても(普通程度ネ(^_-))、情操・性格が爽やかに良い娘さんをさします。日本語にはそうした、何ともぴったりとした表現の言葉があるのです。ですから、“美人”と“器量良し”とは分けて使いましょうv_(^o^)_v) _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ もうひとつところで、うっかりすると間違えます。遊女の「たゆう」は、芝居の竹本とも区別するので「大夫」と書きます。 これはあまり触れられているのがありませんが、どうやらそのようですので、「太夫」と書かない方をお勧めします。 唄う時も“たゆう”と発音せずに“たいふ”と唄いましょう。 |