[iwasetokue~]その5
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心で聞く

 アメリカのジャズメンが、友達の日本舞踊家の紹介で訪ねてきました。三味線音楽に興味があるということでしたが、ご挨拶するなり紅潮気味の顔で言いました。

 「今、ジャズを聴きに行ってきたのです。日本の非常に高名な人のジャズで、テクニックはすごくて高度だったのですが、聴いていてだんだん腹が立ってきたのです。演奏が心からの演奏ではないので、本人は非常に熱演の風であったにもかかわらず、心からのメッセージが感じられない。それが、高名であるだけに、なおさらのこと聴いていて怒りすら覚えました」と、憤慨していました。その後の私のコメントは過激なので控えますが、心からの演奏が意味するもの、また、アメリカの人でも音楽を聴いたときに徒に先入観だけでなく、音楽への審美眼を持って受け取って聴く人がいるということは、驚きであるとともに一筋の光のようにも感じました。

 その後、私の三味線が聴きたいということになりまして、我々の世界ではそのような場面ではまず三味線を持って弾くことはないのですが、スペシャル超大サービスで洋楽的フレーズのある『ペーパードール』を弾きました。「ワンダフル!」と大変喜んで、やおらフルートやらいろいろな楽器を取り出しました。「なにかセッションできるものはないか」。そこで、「こんなのはどうか」とセッションになりそうなフレーズを投げましたら、彼がフルートを吹き出しました。乗ってきまして、全く打ち合わせのない本来の意味の即興演奏が始まりました。こちらが乗ってメロディー展開をしているときは、彼の方は伴奏的フレーズで合わせ、あちらが乗っていきそうなとき、こちらが伴奏的な役割を演じるなど、「あ うんの呼吸」が「存在」し、なんと20分余りも熱演してしまいました。長い一日でしたが、音楽の心のメッセージのわかる人が洋の東西を問わずにあるという発見は、喜びとともに感慨深い一日でした。

支離滅裂乱文集より…機関誌《三味三昧》より転載

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